第十九話

受け持ちである一年生の授業を終え、疲労感の抜けない体を引きずり外の自動販売機へ向かう。この疲労はテスト期間による肉体的な疲れではなく、精神的な所からきていた。
理由は簡単。テスト期間中、高耶さんは家に来てくれないのだ。

別に家で問題用紙を作ったり採点するわけではないと言っているのに、「ケジメだ」と言い頑としてきかない。高耶さんのそういう生真面目な所は美点だが、俺にとってははっきり言って苦痛でしかない。

『癒しが足りてないんじゃないですかぁ?』
さっきの授業の終わり、疲れた俺の顔を見た女子生徒の発言だ。
――確かに足りていない。 今朝なんて彼を組み敷く夢を見てしまい、一人虚しく自分を慰めた。


コーヒーでも飲んで頭をスッキリさせようと考え、入札口に千円札を滑らす。

ボタンを押そうとした時、体にドンっと小さな衝撃を受けた。

「俺ウーロン茶」
「たか…仰木さん!」

驚いて家での呼び方をしてしまった。
スラリと細い体が、俺の右側にぶつかったままの体制でくっついている。

可愛い彼の行動に上がる口角を抑えつつ、ピッピッと二つボタンを押す。

「やった!奢ってくれんの?」
「もちろん。家計は一緒ですからね」

最後の方はやや声を落として囁くと、彼は「あー」だか「うー」だかの奇声をあげて狼狽えていた。

「ま、まぁいいや。ありがとな

「どういたしまして。次は英語のテストですよね、頑張って」
「おう!」

ペットボトルを受け取った高耶さんは体を離し、階段へ向かう途中にこちらを振り返った。

「テスト明け、なんか食べたいやつ考えとけよ!」

颯爽と帰る背中を見送る。俺は体から疲労が消えているのを感じた。

「癒しか…」

テスト明けは何を作ってもらおう。定番だが肉じゃがを作ってもらおうか。まだ彼の肉じゃがを食べたことはないが、きっと俺の好きな味だ。
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